yamatoyaでは、中原歯科医院の小児歯科医、中原弘美先生と一緒に正しい食事姿勢を研究しながら、健やかな成長を見守るベビーチェアの共同開発を行ってきました。開発を進めていくにあたり、歯並びのメカニズムや、食事中の姿勢が歯並びや噛み合わせと深い関係があることを知り、正しい姿勢で食べることの大切さを感じました。
今回は、中原先生監修のもと、乳歯の歯並び・噛み合わせと、幼児の食事の姿勢の関係性について解説します。
乳歯の頃から気にかけたい「歯並び」
小児歯科医の中原先生のお話をお聞きしていると、近年の小児歯科への相談は、虫歯など歯の病気だけでなく、歯並びや噛み合わせの相談もとても増えているそうです。先生が見てみると、生えはじめの段階から歯並びや噛み合わせの不正を持っている子は意外と多く、頭を悩ませているパパやママもたくさんいらっしゃいます。永久歯になってから矯正などで歯並びや噛み合わせを正すこともできますが、歯の土台となる乳歯が生えそろう段階から、歯並びを気にかけることができたら理想ですよね。
では、乳歯というのはどのように生え、歯並びや噛み合わせはどのように決まってくるのでしょうか?
“歯並びや噛み合わせは、親からの遺伝もあるのでは?”という声もよく耳にしますが、実は「遺伝よりも環境の方が大きく関わっている」と、中原先生は話します。
「親と歯並びがそっくりなのは、食べ物や生活習慣が親と同じで、親を見ながら学習しているから。そして、歯並びの良し悪しは、歯が並ぶときの口の中の状態や、舌や頬、顎などの『力のかかり方』が大きく関わっています。歯は、口唇・頬・舌の筋力のバランスによって生える位置が決まります。口唇・頬・舌の筋力のバランスがうまく取れていると、本来並ぶべきところに生える傾向がありますが、そのバランスが崩れると歯が倒れたり重なったり、また生えるべき歯がうまく生えてこなかったり…ということも起こり得ます」(中原先生)
ちょっとした癖や間違いが歯並びに悪影響を…!?
例えば、おしゃぶりを絶え間なく使っていたり、常に指を吸う癖があったりすると、おしゃぶりや指が入っている部分がぽっかりと空いた状態で歯が並んでしまうことがあります。いつも口が開きがちな子や、舌で前歯を押す癖がある子も同様に、歯が前の方へ出っぱってきてしまうことも。下唇を噛む癖がある子は、上の歯が前に出るような形になったり、下の歯が内側に倒れてガタガタになったり、というケースも…。
もうひとつ、歯並びに影響を与えるのが「ストロー」です。「おっぱいやミルクの次は、スパウトやストローを使うことを練習させなくちゃ!」と思っていませんか?
「でも実は、おっぱいやミルクを飲み込む赤ちゃん独特の動き(乳児用嚥下といいます)から、大人が何か飲み込むときと同じ“嚥下”の動きへ移行していく、そのために大切な第一ステップです。スパウトやストローで“吸う”ことを続けるよりも、まずは、深めのスプーンでスプーン飲みに挑戦し、そして次はコップ飲みを覚えさせるのが正解です。こうすると、上唇がきれいに動くようになり、離乳食も上手に上唇ですくいとれるようになります。スパウトからストローと学習し、それ以降もストローを頻繁に使い続けると、唇や頬をお口の中心に集めるような力を集中的に使うようになり、歯も同じように中心にぎゅっと詰まったようなガタガタの生え方になるかもしれません」(中原先生)
子どもの体はとても柔らかいです。ゆえに、筋肉の位置が動いたり、元の位置に戻ろうとしたりする力もとても柔軟。そのため、日々の習慣やちょっとした癖が積み重なることで、口まわりの筋力バランスが崩れ、歯の生え方にも影響が出てきます。
でも、影響が出やすいということは、裏を返すと正しい状態を知り実行することで「また戻る可能性が高い」ということでもあります。生活習慣や姿勢、筋力のかかり方の影響を受けやすい反面、正しい状態や理想的な姿勢を心がけることで、歯並びや噛み合わせが、大人に比べて短期間で改善する可能性が高いのです。
それだけ柔軟なので、今からでも遅くない!ということも忘れないでくださいね。
歪んだ姿勢で食べ続けると歯並びも歪む?
続いて、歯並びと姿勢の関係性を見ていきましょう。
口の中の筋力バランスを語るうえでとても重要なのは「舌」です。舌は、胸や背中の筋肉に繋がっています。そのため、胸や背中、肩甲骨あたりの姿勢の変化は舌の動きや顎の位置に大きく影響します。
食事をするとき、人は舌が大きく動きますよね。猫背だったり、何かにもたれてだらしない姿勢になったり、足が付かないところで食べること体がフラフラと安定しなかったり…。こんなふうに、姿勢が正しく保たれていない状態のままで“モグモグ”していると、口の中の筋肉を正しい状態で動かすことができず、歪みを導いてしまうことにもつながります。
さらに、親が食べさせてあげる時期は、親が座る位置も重要。子どもは親の存在や食べものの在処が気になります。例えば親が右側に座って食べさせると、子どもはいつも右を気にしながら、体を右方向へねじって食べ続けることになります。これも姿勢の歪みにつながってしまうのです。
こうした食事の姿勢の習慣が積み重なることで、口の中の筋力のバランスが崩れ、歯並びや噛み合わせに影響を与えることになるのです。
いつもの食事場所を見直してみよう
食事のときの理想的な姿勢は、背中をピンとまっすぐに、背筋を伸ばした状態。背中が歪んでいないため、背中とつながる舌の筋肉の動きもより正しくなります。
もうひとつ重要なのは、足の裏全体をぴったりとつけた状態で食べること。足が宙ぶらりんのままだと、上半身が安定しません。
親が食べさせてあげる場合は、右や左からではなく、まっすぐ目の前から「アーン」と食べさせることも重要です。
いろいろと理想を並べましたが、極端に神経質にならなくても大丈夫。外食時にレストランのキッズチェアで足が宙ぶらりんになったり、ピクニックに出かけて椅子を使わず芝生の上で座って食べたり…というのをひとつずつ気にする必要はありません。むしろ、大好きなパパやママ、きょうだいと一緒に、いつもとちょっと違った食事を楽しむことこそ、貴重な経験であり、大切な食育。食べたいという意欲を大事にしてくださいね。
時と場合に応じて、子どもの姿勢は臨機応変で大丈夫です。大切なのは、自宅の「いつも食べる場所」を、正しい姿勢で座れる状態にしておくこと。
歪むのも、治るのも、習慣です。良い習慣が付くことで、どんな食べ方をしても歪まない体を支える筋力が育ちます。正しい姿勢が取れることは、健康的な体、正しい歯並び、噛み合わせにつながる、ということを、頭の片隅に覚えてもらえたら嬉しいです。
監修 中原弘美先生(中原歯科医院)
ライター 後藤麻衣子