yamatoyaのアイテムの開発秘話について深掘りしていく「家族の家具のこと、もっと話そう」シリーズ。今回は、この秋リニューアル発売予定のキッズチェア「キトコ」の開発についてのお話です。
開発を担当した、yamatoyaの製品開発チームのみなさんにお話をお聞きしました。
《お話を聞いたひと》
yamatoya 企画開発部のみなさん
ベビーベッドやベビーチェアをはじめ、yamatoyaの製品の企画・デザインはもちろん、製品開発や量産管理など、製造にかかわるさまざまなセクターを担当する、企画開発部のメンバー。左から、奥村さん、伊吹さん、松脇さん、根兵さん。
新しい「キッズハイチェア」として
ー今回リニューアルする「キトコ」について教えてください。
キトコは、自分でしっかりと座ることができるようになった3才ごろから使える「キッズハイチェア」です。3才から大人まで、みんな使える“ロングライフチェア”として、今回改めてリニューアルしました。
yamatoyaのベビーハイチェアはどれも、座面の高さや奥行きなどを調整して大人も使えるものばかりで、定番の「すくすくチェア」をはじめ、「マテルナ」や「アッフルチェア」など多くのベビーチェアがありますが、「キトコ」はそれらのベビーチェアとは、対象年齢も見た目も少し異なります。
ー具体的に、どんなところが違うのでしょうか。
3才以上を対象とした「キトコ」には、ガードやベルトがついていません。
キトコの初期モデルは2017年。いわゆるベビーチェアらしい椅子とは少し違う、おしゃれなダイニング空間にも似合う椅子というのが、元々のコンセプトでした。
子どもも座れるダイニング用の椅子、“キッズダイニングチェア”として誕生しました。
デビューからずっと「キッズダイニングチェア」と呼んでいましたが、たくさんのお客様からお声をいただくなかで、ダイニングだけでなく学習机の椅子として使われていたり、リビング学習に活用されていたり、ご家庭のさまざまなシーンで「子ども用のハイチェア」として愛用いただいていることがわかってきました。
そこで、yamatoyaとしてもダイニングチェアとしての存在だけにこだわらず、それぞれのご家庭の生活様式に合う、「3才以上の子ども用のハイチェア」としてもう一度デザインを見直して、今回「キトコ キッズハイチェア」としてリニューアルすることになりました。
ー現在のキトコのユーザーさんは、どんなきっかけで買われる方が多いんでしょう?
「きょうだいが増えてベビーチェアを下の子へ譲りたいから、上の子用に…」というご家族は結構多いですね。
あとは「今使ってるベビーチェアの対象年齢は3才までで、だんだん窮屈になってきたから」と、他社さんのベビーチェアから買い替えるパターンもよく耳にします。
3才は年少さんで、ほとんどの子が入園するタイミングでもあるので、引越しや生活スタイルの見直しなども多いです。
決して安価な椅子ではないので「小さいうちだけ使えればいい」というより、大きくなっても長く大事に使ってもらえるような椅子を探してくださるご家族が選んでくださっている印象です。
いつも正しい姿勢で座れる椅子を
ーリニューアル開発は、どのように進んでいったのですか?
キトコに限らず、どのチェアにも言えることなのですが、私たちがベビーチェア・キッズチェアのことを考えるときはいつも、「正しい姿勢で座れること」、特に「足の裏をつけて座ること」を大切にしています。
今回のリニューアルでも、開発当初から「正しい姿勢で座る」ことには特にこだわり、現行のキトコをお使いいただいているお客様からのお声やレビューを参考にしながら、子どもの姿勢を守るためのデザイン、座板のサイズや足置きの奥行き、幅の調整、さらに全体のデザインなど、検討を重ねました。
ー具体的には、どんなところが変わったんでしょうか。
まずは、より座りやすいように、フレーム設計の寸法を検討していきました。
肘置きの形を見直したので、以前のモデルよりテーブルとの距離が近くなり、正しい姿勢をキープしやすくなったと思います。
全体的なデザインとしては、肘置きから背板にかけてのラインや、前後の脚の繋がりが感じられるデザインも今回の大きなリニューアルポイントです。
脚については、後ろから見た時にハの字になっていて、より安定性が増しました。
ー開発にあたり、苦労した点、時間をかけた点はどこですか。
今回開発に時間をかけたのは、足置き板の奥行きです。以前のキトコよりも約4cm長くなっています。
キトコの前モデルの足置き板は、今回と比べると少し小さめの設計でした。インテリアに馴染むデザインを求めていたという点もありましたが、今回はもう少し「足裏をペタッとしっかりつけて座ること」の優先順位を上げて、足置き板をある程度広く取れるように、ミリ単位で試作品をいくつも作って検証を重ねました。
足置き板は、やみくもに大きくしすぎると、転倒の危険が高まります。転倒することのないよう、安全面についてもしっかり検証しました。
「子どもの足をできるだけしっかり乗せられる広さ」を確保しつつ、「転倒の危険のないサイズ」は守り、さらに「インテリアに馴染むデザイン」というのも忘れず、この3つのバランス感を意識して、たどり着いたデザインになりました。
目安としては、10才くらいまでの子どもまでなら、安定して足が置けるサイズ性になったと思います。
さらに、足置き板の下の「幕板」という補強により、足置き板の強度も上がり、安定感も増しました。
子どもも大人も使えるシンプルなデザイン
ーキトコは「キッズハイチェア」という名前ですが、大人が座っても違和感なく、すっきりしたデザインなのがいいですね。
大人用に調整したときに「子ども用の椅子っぽさ」をなるべく感じさせないというのも、デザインする際に気をつけたところです。
ベビーチェアに感じる「赤ちゃんの椅子っぽさ」をなるべく緩和するために、調整用の穴を目立たせなくしたり、肘置きの形状を工夫したり、スタイリッシュなデザインを心がけたりと、チェア全体の雰囲気はかなり見直しました。
ずっと長く使ってもらえる椅子になったら、とても嬉しいです。
ーそれ以外に、今回のリニューアルから変わったことはありますか。
部品の点数を少なくして、組み立てや座板・足置き板の調整をできる限り簡素化しました。
また、使用する木材をタモ材に変更したり、製造工程の環境配慮も考え、塗装を従来のウレタン塗装から水性塗装に変えたりしました。
カラーバリエーションも追加しました。インテリアに合わせて選んでいただけるように、これまでのナチュラルとダークブラウンに加えて、ライトブラウンを追加した3色展開になりました。
メーカーとして商品を「守っていく」こと
ーデザインだけではなく、いろんなところが変更されてるんですね。
もうひとつ、これは社内的な話でもあるのですが、意匠権も登録して、メーカーとしてしっかり「商品を守っていく」ことにも力を入れています。
というのも、ここ数年ネット通販で「yamatoya」や「キトコ」などのブランド名を勝手に使って偽物を販売する悪質な業者が後を絶たず、弊社としても対応に追われ困っています。
特に通販で購入されるお客様に、正規品だと安心してもらえるように、今後もしっかりと力を入れていく必要があると感じています。
今回、リニューアルを機に意匠権を登録した以外にも、脚にレーザー刻印でyamatoyaのロゴを入れました。お客様が見たときに正規品と一目で判断がつくようにしたいというのも、ロゴを入れた大きな理由です。
ー改めて、今回の開発を振り返って、いかがですか。
これまでのキトコから、より一層使いやすく、さらに家具らしくブラッシュアップできたかなと思っています。
今回の開発はリニューアルという形ですが、キトコの在り方から見つめ直し、試行錯誤を繰り返しながら開発しました。私たちはもう何年もベビーチェアやキッズチェアに携わっていますが、椅子は単純な形に見えて、かなり奥深く難しいものだということを、改めて実感した開発でした。
こまめに調整しながら、大人になるまでずっと使い続けてもらえると嬉しいので、お客様にベストな状態でお使いいただけるよう、高さ調整のコツなどもしっかりお伝えしていきたいです。
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今回の「キトコ」のリニューアルに合わせて、開発秘話をたくさん聞かせていただきました。ここに載せきれなかった細かなこだわりもたくさんありました。ぜひ実物に触れて、作り手の思いを感じてもらいたいです。
企画開発部のみなさん、ありがとうございました。
ライター 後藤麻衣子