子育てママ・パパの数ある悩みのなかでもよく話題になるのが「離乳食」。
「育児書を参考に進めているけど、これで本当に合っているの…?」と不安になることも多いと思います。
今回は、2人のお子さんのママであり、現在は製菓学校の先生をしながら「離乳食アドバイザー」として、食育について広く情報発信をされている上西由理佳さんに、子どもの離乳食の進めるにあたっての考え方に加えて、窒息の危険から守る食事のポイントなどについてもお聞きしました。
《教えてくれたひと》
離乳食アドバイザー
上西 由理佳 さん
料理教室の先生として、幼児から大人まで幅広い年代向けの料理・パン・製菓のレッスンを担当。製菓専門学校の講師として、パティシエを目指す学生の指導にもあたる。離乳食アドバイザーの資格を持ち、保育園でのおやつ作り体験会や、保護者向けアプリ内にて離乳食レシピ、How-toコラムなども担当している。4才、2才の2児の母。
悩みの尽きない「離乳食の進め方」
我が子のハーフバースデーが見えてきて、いよいよ始まる「離乳食」。
とろとろのおかゆやすりつぶした野菜など、そのまま飲み込めばいいものから始まり、徐々にステップアップしていきます。
そんなとき、ママやパパを悩ませるのがその「進め方」。
離乳食を進めるにあたり、いろいろな悩みが出てきますよね。
「適切な硬さや大きさが分からない」「丸呑みしてしまうのがこわい」「歯が生えていないのに、離乳食を進めてもいい?」「モグモグ期の形状も噛めていないような気がするけど、本当にカミカミ期に移行してもいいの?」と、先へ進むのを躊躇してしまう人もいると思います。
0才児の発達の個人差はとても大きく、歯の生えてくる時期もさまざま。
つまり子どもの数だけ、離乳食の進め方があると言っても過言ではありませんが、その見極めが難しいですよね。
子どもの“食べる機能”は、どう成長する?
一般的に離乳食の開始を検討し始める、生後5・6ヶ月頃、子どもの口元や舌はどのように成長していくのでしょうか。
生後5〜6ヶ月、離乳食を開始したばかりの頃は、舌を前後に動かし、唇を閉じて飲み込みます。
生後7〜8ヶ月頃になると、唇をしっかり閉じたまま、舌を上下に動かして押しつぶす、“咀嚼”をするようになってきます。
さらに、離乳食開始から離乳完了に向けて、歯が生えてきたり、少しずつ舌やあごが上手に使えるようになっていきます。
厚生労働省の『保育所における食事の提供ガイドライン』には、このように記されています。
「食事は子どもの咀嚼・嚥下機能、手指の機能などの発達に合致して調理されているのか」、「子どもはおいしく食べているのか」、「どれだけの量を食べているのか」など、調理した食べ物を摂取する一人一人の子どもたちの機能面や心理面から観察することが望まれる。
つまり、「7ヶ月だからモグモグ期のものが食べられる」「9ヶ月になったから手づかみ食べをスタート」という、月齢に基づく目安だけで離乳食を進めていくのではなく、一人ひとりの噛む力や飲み込む力の成長に合わせた食事を用意する必要性があると述べています。
「うまく飲み込めていないかも…」と感じたら
実際に「飲み込む」ことがうまくいかず、離乳食のステップアップにつまずいた場合、どうすればいいのでしょうか。
ポイントは、「どの時点でつまずいているかを知る」こと。それが把握できれば、その一歩前の段階に戻して再チャレンジできます。
それぞれのケースの対応方法を見ていきましょう。
◆飲み込むときにむせる、飲み込むのが下手
→ 一口あたりの量を減らし、適量を知らせてあげましょう。
もう一段階柔らかく調理して、くちびるを閉じて飲み込む練習に再チャレンジ。「舌でつぶす」から「歯ぐきでつぶす」へと、段階を踏んでステップアップするのが理想です。
◆硬いものが噛めていない
→ 食べる機能の発達に合った硬さになっているか、確認しましょう。
つまずきを感じた硬さと、同等程度の硬さのものを少しずつ与えながら、前歯で噛みとること、咀嚼することを繰り返し練習してみてください。
◆すぐに丸呑みしてしまう
→適量与えているか、また発達に合った適切な硬さか確認しましょう。
前歯で噛みとる練習になるような、バナナやスティックパンなどを与えて、一口の適量を学ばせてみましょう。しっかり咀嚼する動きを見せながら、一緒に練習してあげてください。
育児書やガイドラインに示された進み具合に沿っていなくても大丈夫です。子どもの成長に合った大きさ・固さであるかどうかを見極めながら、少しずつステップを踏んで試してください。
保育所に通っている場合は、子どもの食べる様子やつまずいていることを親と保育者でこまめに共有することもおすすめです。
手づかみ食べ=飲み込みのトレーニング!
生後9ヶ月頃以降、子どもが食べものに興味を持ち、手を伸ばすような仕草が出始めたら「手づかみ食べ」も応援してあげましょう。
離乳食を進めるにあたり、手づかみ食べをさせてあげた方が良いとわかっていても、食事に時間がかかったり、片付けが大変だったりしますよね。効率を考えて「ついスプーンで食べさせちゃう」というその気持ち、とてもよくわかります。
でも、手づかみ食べは、大きな成長の過程のひとつ。その経験から、噛む力や飲み込む力が発達していきます
いろんな食材や形状や、自分で食べるという経験を積み重ねることで、食べる機能をコントロールする力がついていくのです。
咀嚼力がついてきたと感じたら、いろいろな形状・硬さの食べ物を用意して、どんな風に食べているかを観察してみてくださいね。
子どもの窒息事故を防ぐために
子どもは食事を通して、体も心もぐんぐん発達しています。
食べムラや好き嫌いが出てきたり、食べること以外に興味を持ち始めるのは、成長の証。それでも、立ち上がったり歩き食べなどをするのは、窒息事故の危険もあります。
食事中は座って姿勢よく食べること、動き回らず集中して食べることなど、食事のマナーも、少しずつ伝えていけたら理想ですね。
窒息事故を防ぐための心がけとして、「食べる前に水分を摂って、のどを潤してから食べさせる」ことが挙げられます。
目の前でママやパパが「もぐもぐ」と声をかけながら、口の動きを見せてあげるのもポイントです。口の中に何もないことが確認できてから次のスプーンを見せると、慌てて丸呑みするのを防ぐことができます。
窒息事故を防ぐために、良い姿勢で食べることも重要です。
生後5〜6ヶ月頃、まだ椅子に上手く座れない時期は、ハイローラックに座らせたり、抱っこの状態で食べますが、できるだけ腰を立てた姿勢を心がけましょう。少しだけ背を後ろに傾けて、出した舌が地面と平行になるくらいが上体を起こす目安です。
生後7〜8ヶ月以降、1人で座れるようになったら食事用のイスに座らせて、足裏がペタッとしっかりつく環境をつくってあげてください。
できれば、背筋が自然と伸びるものを選びたいですね。
食の楽しさを共有し、「食べる力」を伸ばそう!
「食べる環境」や「何を食べさせるか?」は、もちろん大切なことですが、離乳食期は「食事を楽しむ気持ち」を育むことがとても大事な時期です。
いろいろな食材や味や食感を楽しんだり、自分で食べることを楽しんだり、家族と一緒に楽しく食卓を囲む経験が、体も心も豊かにしてくれます。
目の前の子どもの様子をよく観察しながら、一人ひとり違う「食べる力」を、じっくり伸ばしていきましょう。
子どもの食事について、悩んだりうまくいかずに困った時は、悩みを専門家に話してみてください。
かかりつけ医、近隣の保健センターや子育て支援センターの方、栄養士、離乳食アドバイザーに、気軽に相談してみてくださいね。
参考文献
・厚生労働省『授乳・離乳の支援ガイド』(2019.3)
・厚生労働省『保育所における食事の提供ガイドライン』(2012.3)
・堤ちはる・土井正子編著『子育て・子育ちを支援する子どもの食と栄養』(萌文書林/2012.3)