出産を期に産休・育休を取得し、いよいよ職場復帰。
「通う園も無事決まって、職場への書類提出も済んだからあとは出勤するだけ!」…と思っているママやパパは多いと思います。
しかし、実は育休から復帰した直後から、思うように両立できずに挫折したり壁にぶつかったり…という人も多いのが事実。最悪の場合、辞めたくないと思っているのに退職せざるを得ないパターンもあります。
企業・個人向けに育休復帰の支援をしている「Creasmile」代表の小里 結未さんに、育休後の職場復帰に向けての心がまえや、育休中からできる準備について教えていただく、全4回のインタビューもいよいよラスト!
最後は、職場復帰に向けての心がまえと、これから復帰する皆さんへのメッセージです。
《教えてくれた人》
Creasmile 代表(育休後アドバイザー / ベビーマッサージ講師)
小里 結未(おり・ゆみ)さん
広告会社で行政機関や法人企業などのマーケティングに携わる。地域雑誌の編集長を経て、社内売上トップクラスのエリアマネージャーに抜擢。その後1年半の産休・育休を取得して復帰。育休復帰前の自身の知識不足や企業のサポート体制の不十分さに葛藤したことをきっかけに、育休を取得したママ・パパに必要な知識や準備などのノウハウ、子どもとの深い関わり方などを学ぶ。企業向け・個人向けの育休復帰支援を行う「Creasmile」を立ち上げ、活動を展開する。一児の母。
「両立環境」を把握し、頼る力もつけていこう
ー小里さん自身が育休から職場復帰したときは、どんな壁にぶつかったんですか。
私は産後もバリバリ働く気でいたんですが、理想とのギャップが大きくて、何もかもうまくいかなくて、常にモヤモヤしていました。
そのモヤモヤの原因は、後から考えると「両立環境」をきちんと把握できていなかったことでした。
両立環境とは、保育園に入園する子を中心に、パパ・ママや祖父母、企業や自治体の制度など、身の回りのサポート体制のこと。
父方の祖父母、母方の祖父母が近くにいるのか、遠くて頼れないのか。その祖父母にはどんなサポートをお願いできるか。
そして勤務先にはどんな制度があるのか。
園の延長保育や土曜保育などの制度、病児保育や、家事・育児サービスなども含みます。復帰前に、自分たちの両立環境をきちんと把握しておくことが大切です。
こうお伝えすると「なんだ、そんなことか。もちろんわかってます」と思うかもしれませんが、これが意外とできていないのが現状なんです。
私も、実際に復帰した後に「なんでこんなにうまくいかないんだろう」とモヤモヤしたときに「私って両立環境に恵まれてないんだ」と改めて知りました。
もし育休中にそれらを把握したうえで、夫とも話し合いができていたら、両立がもう少しスムーズだったかもしれないな、と今となっては思います。
どんなにデキるママでも、たった一人で仕事と家事と育児をこなすのは無理です。
正しく知ること、夫婦で話し合うこと、そして周囲に「上手に頼ること」。
子どもを育てていくためには、どれも必要なことです。
職場復帰後に起こりうること全てを事前に把握し、対策や計画をすることはできませんが、「これを知っておくといい」「これを話し合っておこう」という情報を自分の中にインストールしておくだけで、復帰後のギャップや悩みにひとつずつ向き合っていけると思います。
ー小里さんのお話を聞いていると「なるほど」と頷くことがたくさんあります。
ここまでいろいろお聞きしてきましたが、夫婦の話し合いのきっかけとして、取り組みやすい内容って、何かありますか?
ひとつ例を挙げるとしたら、時短勤務についてですかね。
育休からの職場復帰と聞くと、「とりあえず時短かな」「パパは現状維持で、復帰するママが時短にするのが通例」と考える人がほとんどだと思います。
時短勤務制度はとても便利な制度ですが、でもそれは、自分たちにとって本当にベストな形なのか、今一度考えてみると良いと思います。
もちろん時短は「早く帰れる」という大きなメリットがありますが、もちろんその分収入は減りますし、復帰してからも早くキャリアを積みたい人にとってはデメリットも少なからずあると思います。
例えば、パパが時短勤務をしてみる手だってあると思います。
また、どちらかの会社のフレックスタイム制と、日によっては園の延長制度やファミリーサポートなどをうまく駆使すれば、ママが時短勤務にする必要がないかも?という場合も考えられます。
「ママが時短にするのが一般的だから」と思考停止してしまうのではなく、両立環境や会社の制度をしっかり把握して、「そもそも、私たちはどうしたいんだっけ?」という希望や目的を明確にしたうえで、夫婦で検討してほしいです。
そうすることで、もしかすると時短以外の道が見えてくるかもしれません。
ー復帰すると、仕事と子どもを天秤にかけて決断をしないといけない場面が出てくると思うんですが、小里さんはどうしていますか。
子どもが体調を崩したときに仕事を休んだりするときも、いつも悩みますよね。
それについては一旦、今の自分の中で「軸」を決めておくと悩みが少し解消するかもしれません。
「子どもが体調を崩したら、そばにいたいから休もう」「体調が復活した後の出席停止期間は病児保育も視野に入れてみよう」といった感じで、事前にどうするかをあらかじめ決めておくことで、いざその壁にぶつかったときに判断基準を得られて、心が軽くなるかもしれません。
育休復帰準備は、起こりうることを知って、その心づもりをしておくこと、それを夫婦間で共有しておくことが、とにかく大切です。
お互いの思いも、ぜひ話し合ってみてくださいね。
思い描いたキャリアを諦めず、自分らしく生きる
ー仕事と育児の両立、とても大変ですが、うまく両立して以前のように仕事もがんばりたいと思っているママやパパに、小里さんから伝えたいことはありますか。
いろいろありますけど、すごくシンプルに「自分が思い描くキャリアを諦めない気持ち」は、大切にして欲しいと思います。
子育てが大変すぎると、どうしても自分のことは後回しになりがちです。
目の前の小さな命を守ることに自分のリソースをめいっぱい使ってると、自分の人生に対する意欲を、一瞬忘れちゃうんですよね。
私も実際、そうだったのでとてもわかります。
仕事を続けたくて育休を取ったはずなのに、その気持ちも忘れ去っちゃう。それくらい、子育てって本当に大変なんです。
でも、その「がんばりたい」と思っていた自分自身の気持ちを、ぜひ忘れないでほしいと思うんです。
子どものことが大事なのはわかります。でも、子どもを大事にするのと同じように、もっと自分のこと、自分の未来のことも同じように大切にしてほしい。
諦めずに乗り越える方法がきっとあるはずだから、自分の本音にも耳を傾けて、子育ても仕事も自分らしく楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。
ー最後に、育休から復帰するママやパパへメッセージをお願いします。
「職場復帰への準備」と聞くと、「なんだかめんどくさそう」とか「意識高い」とか、なんとなく自分のタスクが増えるイメージがあるかもしれませんが、実は逆なんです。
大きなライフスタイルの変化を夫婦平等に乗り越えるため、そして自分の負担を減らすための準備だと、私は思っています。
新米ママ・パパは、子育てを経験したことによって、スケジュール管理能力、多面的な視野、コミュニケーション能力、交渉力、いろんなものが身について、ひとりの人間として、そして社会人としても確実にパワーアップしています。
出産や育児で、社会人としての生活から一度離れたことで、不安に思うことがあるかもしれません。子どもの体調不良が続いて休んでばかりの時なんて「周りに迷惑かけてばかりの役立たず…」と思ってしまいがちなんですが、そんなふうに自分を卑下するのではなく、もっと自信を持ってほしい。
それくらい、子育て中のママやパパってすごいんです。
子育てと仕事の両立は本当に大変ですが、今このかけがえのない経験が、絶対に未来のあなたを支えてくれると、私は確信しています。
一緒にがんばりましょう!
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4回に分けてたっぷりお届けしてきた「育休後の職場復帰」のお話。
いかがでしたでしょうか。
子どものことと同じくらい、自分自身や家族のことも大切にしながら、ぜひ「自分らしい人生」を、共に考えていけたら理想ですね。
ライター 後藤麻衣子