赤ちゃんの寝かしつけや、ひどい夜泣きや寝ぐずりなど、「寝る」ことについて悩みを持っているママやパパはとても多いと思います。
「どうやって寝かしつければいい?」という疑問に答えてくれるのは、赤ちゃんの眠りの専門家「乳幼児睡眠アドバイザー」の資格も持っている、助産師の高須かおりさん。
このシリーズでは4回にわたり、赤ちゃんの“寝る力”、そして“眠り”について、詳しくお話をお聞きしていきます。
《教えてくれた人》
助産師/高須 かおり さん
母乳相談や育児相談、ねんねや離乳食についての相談対応、産後ケアなどを、自宅へ出張するかたちで個別にサポート。個人向けのほか、自治体からの派遣で新生児訪問も行っている。産前から産後のママのあらゆる悩みの相談相手として、一人ひとりに寄り添うサポート活動を展開。「乳幼児睡眠アドバイザー」や「離乳食アドバイザー」のほか、マタニティヨガやベビーマッサージ等のインストラクター資格も多数。
https://www.instagram.com/jyosanshi.an/
赤ちゃんが本来持っている「眠る力」を育む
ー高須さんの活動内容について教えてください。
赤ちゃんがいるご家庭や、里帰り中の実家に伺って、母乳や授乳、育児、沐浴などのご相談とお手伝い、妊娠中から産後にかけてのママの体調管理、産後の生活・育児サポートをしています。
そのほか、行政からの委託で新生児訪問や訪問型の産後ケアも行っています。
活動は出張が専門で、愛知県の西尾、岡崎、幸田、安城、碧南、高浜エリアが主な対応エリアです。
妊娠と出産、そして産んですぐ24時間体制で始まる子育ては、不安や心配が尽きません。
私はママのすぐそばで寄り添いながら、子育ての安心を届けられる助産師でいたいと思い、活動をしています。
ー“赤ちゃんのプロ”である高須さんにお聞きしたいことはたくさんありますが、今回は赤ちゃんの「眠り」について、詳しくお聞きしていきたいと思います。高須さんは「乳幼児睡眠アドバイザー」という資格もお持ちですが、これはどんな資格なんですか?
乳幼児睡眠アドバイザーは、NPO法人「赤ちゃん眠り研究所」が認定する資格です。
生まれたばかりの赤ちゃんは、睡眠サイクルも短くて授乳も頻回なので、ママが睡眠不足になりがちです。ママの睡眠不足は、体やこころの不調にもつながることがあります。
これまでもたくさんの赤ちゃんとママを見てきましたが、赤ちゃんの睡眠について少しでも知見が増えれば、赤ちゃんの眠る力を育み、ママの悩みにもっと寄り添えるのではないかと思い、勉強を始めました。
毎日必死にがんばってるママに、「この時期の睡眠不足はしょうがないよね」「今だけだから、がんばろう」なんて、私はとてもじゃないけど言えません。
私自身も、産後のツラい寝不足期間を経験しましたが、あれは他人からがんばれと言われて乗り越えられるような、そんな軽いものじゃないと思うんです。
根性論で乗り越えよう!ではなく、赤ちゃんが本来持っている「眠る力」や睡眠の理論をしっかり知って、それを取り入れながら、悩みにひとつずつ向き合いたいと思い、その一歩目として資格を取得しました。
「寝かしつけ」の方法を工夫する前に、できること
ー今回は主に、乳幼児の「寝かしつけ」についてお聞きしたいと思います。ずばり、どうやって「寝かしつけ」をするといいのでしょう?
「どうやって寝かしつけると早く寝ますか?」とか、「万能な寝かしつけ方法が知りたい」という悩みは、本当にたくさんいただきます。
でも実は「寝かしつける」という行動を工夫する前に、「眠るための環境」、「生活リズム」、この土台部分を見直し、整えることがとても重要です。
人が本来持っている「眠る力」ってすごいんです。
朝起きることも、夜眠くなることも、あとはお腹が空くのもそうですが、人は「体内時計」によって、自然と1日のリズムが設計されています。24時間の体の調子を整えるために、大人も子どもも体内時計が動いています。
たとえば、朝に光を浴びると、そこから約14〜16時間後に、睡眠ホルモンが分泌されるといわれています。
つまり、寝かしつけの方法を探る前に、まずは子どもの体内時計を整えてあげたり、安心して眠れる環境を準備してあげたりすることで、それが結果的にスムーズな入眠につながり、「寝かしつける」という行為を工夫する以前に「自然と寝ていく」リズムをつかめる、そんな可能性が高くなるんです。
心地よく眠る環境が整っていないのに、寝かしつけの方法ばかり工夫しても、あまりうまくいきません。
ひどい夜泣きや寝ぐずりに悩むママたちに、私はいくつかの「心がけ」についてお話ししています。
まずは、赤ちゃんが眠りやすくなるための土台づくりを、一緒に考えていきましょう。
朝、同じ時間に朝日を浴びる習慣を
ー「寝かしつける」ことを工夫する以前に、できる心がけや環境づくりがあるんですね。具体的には、どんなことに気をつければよいでしょうか。
体内時計を整えるという意味で、光の力をたくさん借りて環境を整えていきます。
具体的には「毎朝、同じ時間に朝日を浴びること」、そして「夜は寝室をしっかり暗くすること」を、心がけてみてください。
朝、光が目から入っていくとそれが脳に届き、「これから一日の活動が始まるよ」という信号のようなものが出ます。それは子どもも大人も一緒です。
そして、朝日を浴びてから大体14〜16時間後に、睡眠ホルモンと言われている「メラトニン」が分泌されます。このメラトニンが体内時計に働きかけることで、覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘うといわれています。
ですので、朝はできるだけ同じ時間にカーテンを開けて、光を浴び、体にそのリズムを教えてあげましょう。
ただ、生まれたばかりの赤ちゃんは、お腹の中にいたときに20〜30分ごとに睡眠と覚醒を繰り返していたリズムが抜けきらないので、どうしても頻回に起きてしまいます。また、未熟な状態で生まれる赤ちゃんは睡眠ホルモンが分泌されていません。
平均すると生後2~3ヶ月ごろから、その睡眠ホルモンが分泌され、体内時計が整ってくると言われています。
それでも新生児のうちから、なんなら妊娠中のうちから、朝はできるだけ同じ時間にカーテンを開けて光を浴びることを心がけると良いと思いますよ。
ーなるほど! 夜同じ時間に眠くなるように、朝の光を浴びる時間のリズムをつけていくんですね。夜は「部屋を暗くする」とおっしゃいましたが、どれくらい暗い状態にするとよいでしょう?
小さいお子さんと一緒に寝ているご家庭は、ほんのり照明がついている薄暗い部屋で寝ている人が多いですが、できれば真っ暗な方がいいです。
夜に光を浴びると、睡眠ホルモンを減らしてしまいます。
子どもは大人よりもさらに光に敏感なので、豆電球ほどの小さなオレンジ色でも、眩しく見える子がいます。もっと言うと、空気清浄機のグリーンのランプや、エアコンの運転中のランプでも眩しく感じる子もいます。
大人が「薄暗くて心地よい」と思っていても、赤ちゃんは大人よりも眩しく感じている可能性もあります。
暗い部屋で眠ることは、睡眠ホルモンの分泌はもちろん、安心して眠るためにもとても大切です。
ただ、眠りにつくときに暗すぎて不安がるお子さんの場合は、豆電球くらいの小さな照明で薄暗くした部屋で寝かしつけて、眠りが深まったら真っ暗にするという方法もいいと思います。
しかし、真っ暗でお子さんの様子が分からないと心配だと思います。直接、赤ちゃんの目に光が届かないようにすることが大切なので、足元に柔らかいオレンジのライトを置くのも良いと思います。
朝7時にカーテンを開けて光を浴びると、睡眠ホルモンが分泌されるのは14時間後の21時頃からです。そのタイミングで暗めの寝室に移動して眠る、また翌朝は7時に光を浴びる…といったように、そのリズムをまずは続けてみてほしいです。
私がお伺いしている出張相談では、お部屋の環境を見させていただき、お子さんの睡眠の特徴やお悩みのポイントをお聞きしながら、子どもが本来持っている「自然と眠る力」をどう育むのが良いのか、一人ひとりの個性に合わせてお話をしています。
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「寝かしつけを工夫する」前に、まずは赤ちゃんの体内時計を整えることが重要。
まずは「同じ時間に朝日を浴びる」を続けてみることから、いろいろ試してみてくださいね。
次回のvol.2は、お昼寝と夜の就寝時、それぞれの環境の整え方について、詳しくお聞きします!
ライター 後藤麻衣子