赤ちゃんの眠りの専門家「乳幼児睡眠アドバイザー」の資格を持つ、助産師の高須かおりさんに、赤ちゃんの寝かしつけのお悩み解決法をお聞きするこのシリーズも、いよいよ最終回です。
今回は、子育ての永遠の課題である「夜泣き」について。
高須さんがいつも個別相談で感じていること、がんばっているママやパパに伝えたいメッセージを、お伝えします。
《教えてくれた人》
助産師/高須 かおり さん
母乳相談や育児相談、ねんねや離乳食についての相談対応、産後ケアなどを、自宅へ出張するかたちで個別にサポート。個人向けのほか、自治体からの派遣で新生児訪問も行っている。産前から産後のママのあらゆる悩みの相談相手として、一人ひとりに寄り添うサポート活動を展開。「乳幼児睡眠アドバイザー」や「離乳食アドバイザー」のほか、マタニティヨガやベビーマッサージ等のインストラクター資格も多数。
https://www.instagram.com/jyosanshi.an/
夜泣きかと思ったら「寝ながら泣いている」パターンも!?
ー「夜泣き」は、子育ての永遠の課題、悩みだと思います。夜泣きに悩むママからのご相談も、多いのではないでしょうか。
そうですね。いろいろなお悩みをお聞きします。
具体的にはその子の状態や特徴をお聞きしながら、個別に解決策を一緒に考えているので、「これをすれば夜泣き知らず!」という万能な方法は存在しないのですが、知識として知っておいてほしいこと、がんばっているママやパパにお伝えしたいことを、いくつかお話させてもらおうと思います。
子どもにも大人にも「睡眠サイクル」があり、ノンレム睡眠(深い眠り)とレム睡眠(浅い眠り)を繰り返しています。
大人に比べると子ども(特に月齢の小さな赤ちゃん)は、その睡眠サイクルが短いため、覚醒しやすい状態(回数)が多くあります。本来は眠っていますが、浅い眠りのときに目を開けたり、大きな声で泣いたり、少し大きいお子さんですと、いきなりむくっと起き上がって座ったり、動き始めたりする子もいます。
赤ちゃんが夜中に泣く理由はいくつか考えられますし、「お腹がすいた」「オムツが汚れている」といった生理的欲求を訴えて泣くこともありますが、夜中に泣いてしまううちの何回かは、「眠っているのに、寝ぼけて泣いてしまっているだけ」というパターンが考えられます。
これは、子ども特有の睡眠の特徴といえます。
ー「泣いているのに、実は起きていない」ということなんですか?
そうなんです。
眠っている赤ちゃんが浅い眠りで泣いてしまった場合、大人が「どうしたの〜?」と即座に抱き上げてしまうと、その抱き上げられたことが原因で目が覚めてしまう可能性も考えられます。
ですので、夜中に赤ちゃんが泣いてしまったときは、安全な状態かどうかだけしっかり見ながら、しばらく抱き上げずに様子を見ていると、またすうっと寝ていくパターンも多いです。
「ちょっとのあいだ、抱き上げずに待ってみる」という方法。
赤ちゃんに危険がないか観察しながら、ぜひ試してみてください。
ー抱き上げたことにより、逆に起こしてしまっていたとは、衝撃でした…。寝ぼけているだけなのか、本当に起きているのか、ちょっと観察しつつ、待ってみたいと思います。
あとは、1歳を過ぎてくると今度は、夜中にちょっと目覚めたときに「安心できる環境かどうか」を確認するお子さんもいます。
「眠り始めたときはママが隣にいたけど、今もちゃんと同じ状態のままだよね?」と、うっすら目を開けて確認するんですよね。
大丈夫かどうかを確認しているだけなのに、「どうしたの?ミルク?おむつ?」とママが起き上がってバタバタしてしまうと、「ママがどこかに行ってしまう!」と不安に思って、目が覚めてしまうこともあります。
夜中に誰かを探すように目を開けたら、まずは「ここにいるよ」と安心感を与えてあげて、大人は起き上がらず、一緒に眠ってあげてください。
「起きちゃった」「泣いちゃった」「どうしよう」とママがソワソワしたり、その場を離れたりすると、赤ちゃんもそれをキャッチして不安になってしまいます。
子どもの月齢によっても違いますが、夜泣きや、夜中の覚醒は、子どもの様子を見ながら臨機応変に対応するしかないのですが、こうした子どもの傾向を知ると、対応策もいくつか考えられると思います。
子どもの成長・発達に睡眠は必要ですが、ママやパパにも睡眠は必要ですし、大切です。
少しでも、ママが横になれる時間がたくさん取れるといいなと願っています。
赤ちゃんが「安心して泣ける」状態は、素晴らしい
ー親って、子どものちょっとした動きや小さな声でも、夜中でも目が覚めちゃいますよね。こちらも余裕を持って、安心感を与えてあげることを意識したいです。
特に女性は、産後の女性ホルモンの変化もあり、夜中に赤ちゃんのふにゃっとした泣き声や、寝言のような小さな声に起きてしまうこと、ありますよね。
普段なら起きないような些細な音に反応してしまう、つまり感受性が高い状態になっています。
感受性が高い状態、小さな音もキャッチできるほどの状態というのは、号泣している声がものすごく大きく聞こえるものです。
ある研究から、赤ちゃんの泣き声の聞こえかたについて女性と男性の違いを比べると、女性の方が何倍も大きく聞こえている、ということもわかっています。
特に産後はホルモンの影響もあり、泣きやまない赤ちゃんの声を苦痛に感じることがあります。
それは私も経験したのでとてもよくわかるのですが、赤ちゃんの泣き声に悩み苦しむママやパパに、私は「大丈夫だよ」と伝えたいと思っています。
赤ちゃんの泣き声を聞いているその状態というのは、「赤ちゃんを守っていける存在である」こととイコールです。
ー「守っていける存在である」とは、どういうことでしょうか?
たとえば、赤ちゃんが泣いていて、抱っこをするときもあると思います。
すぐに対応できないこともあると思いますし、ママやパパの方が対応にくたびれてしまうことだってあります。
また、抱っこで泣き止む子もいますし、泣き止まない子もいます。それも個性ですよね。
「抱っこで泣き止ませることが正解で、それ以外が不正解」というわけではありません。
抱っこがすべてではなく、実は声をかけたりトントンしたりするだけでも十分な時もあります。
隣で見つめているだけでいいときもあるんです。何でも良いです。関わりを持つことが大切だと考えています。
手を尽くしても泣き続ける赤ちゃんもいます。でも赤ちゃんは「放置されてる」なんて、思っていないんですよ。
赤ちゃんはまだ喋れないので、泣くことで自分をアピールしています。
ああしてほしい、こうしてほしい、という気持ちがあるから泣いてみる。泣いてみると、大好きな人の声が聞こえたり、抱っこしてもらえたり、欲求を満たしてくれる。
「泣いてアピールする」こと、コミュニケーションをとっていることが素晴らしいことなんです。
すぐに対応できないときもあれば、対応していても泣き止ませられないときもあります。
でもそれは「放置している」とか、「泣き止ませられなくてダメな親」だとか、そんなことは微塵も感じなくていいんです。
赤ちゃんは、「安心して泣けている」んです。
自分をアピールできる状態にあることは、ママやパパや周囲の大人が「安心して泣ける環境を毎日提供している」、つまり「赤ちゃんを守っていける存在である」こととイコールだと思っています。
ーそう聞くと、少し心が軽くなります。夜中に赤ちゃんが泣きやまないと「早く泣き止ませないと」と焦ってしまったり、どうしてもネガティブに考えてしまいがちですが、今の話を聞いてちょっと考え方が変わりました。
そうなんです。
毎日赤ちゃんが生きていて、元気に泣いているというのは、素晴らしいことです。
例え話にするにはかなり極端で重い話をしてしまうのですが、たとえば虐待やネグレクトといった事件に該当する、放置されている状態が極端に長くなると何が起こるかというと、赤ちゃんって泣くことをしなくなってしまうんです。
「泣いても誰も何も相手にしてくれない」と学んでしまうと、アピールすること自体を諦めてしまうんですよね。
とても悲しくて重い話を挟んでしまってすみません。
でもそんな話をしてまで、私が何を言いたいかというと「赤ちゃんが安心して泣いていられる環境」であること、そして「毎日元気に赤ちゃんが泣いている」状態というのは、もうそれだけで、ママもパパも120点満点だと思うんです。
「いつも泣かせてしまって心苦しい」「夜泣きを泣き止ませられなくて」と悩んで相談してくれるママは多いです。
赤ちゃんの泣き声に気が滅入ってしまうという声も本当によく聞きます。私も、その気持ちは痛いほどよくわかります。
でも「赤ちゃんが泣いている」という目の前の状況は、決して「かわいそう」なのではなく、「安心して、自分の欲望をアピールしている」ということなんです。
それは同時に、目の前にいる大好きな人とコミュニケーションを取ろうとしている、赤ちゃんの心の現れともいえると思います。
「赤ちゃんが泣いている」ことは、決してネガティブではありません。
赤ちゃんが安心して欲望を伝えられている、誇るべき状態です。
どうかそれを、心の片隅に置いてもらえたら、とても嬉しいです。
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赤ちゃんの大きな泣き声や、度重なる夜泣きに悩んだことのあるママやパパは多いと思います。高須さんのお話、そして心強いメッセージを聞いて、とても心が温かく、そしてぎゅっと締め付けられました。
4回にわたり、とても貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。
ライター 後藤麻衣子