離乳食や幼児食の考え方のひとつとして、最近耳にすることが増えてきた「BLW」。
前回の「BLWの考え方に学ぼう〈前編〉離乳食期スタートの心構え」では、離乳期の赤ちゃんの食事の考え方についてご紹介しました。
後編も引き続き、「一般社団法人 日本BLW協会」の代表理事である尾形夏実さんに、離乳食期の環境の整えかたのヒントやコツについて、詳しくお聞きします。
《教えてくれたひと》
一般社団法人 日本BLW協会 代表理事
看護師
尾形夏実さん
2019年に長女を出産。日本の離乳食に疑問を抱き、BLW と出会い、2人の子どもに実践。同年、一般社団法人日本BLW協会を設立。自身が講師を務めるセミナーのほか、BLWの提唱者であるGill Rapley氏を日本に招き、ワークショップ等のイベントも開催。著書に『BLW をはじめよう(原書房)』。
赤ちゃんの「食べたい!」という気持ちを育む食卓
ー改めて、BLWについて教えていただけますか。
BLWは「Baby-Led Weaning(ベイビー・レッド・ウィーニング)」の略で、イギリスの保健師であり助産師でもあるGill Rapley氏によって提唱されました。
食べる量やペース、順番などを赤ちゃん自身が決めて進んでいく方法で、BLWでは赤ちゃんが手で持ちやすい形の固形物を準備して、赤ちゃんが自ら食べるのを待ち、食事を進めていきます。
BLWの大きなメリットのひとつに、「家族みんなで食事の時間を過ごせる」という点が挙げられます。
日本では離乳期、それも初期の赤ちゃんだと、ママやパパがスプーンで食べさせてあげることが一般的なので、家族の食事の時間とは別のタイミングで、赤ちゃんの離乳食の時間を設けると思います。
BLWの考え方として、私はいつもセミナーなどで「脇腹を支えてあげて、ご機嫌悪くなく座れていれば、赤ちゃんを家族の食事に迎え入れましょう」とお伝えしています。
離乳初期から、大人やきょうだいと一緒の食卓を囲んで「いただきます」をするんです。
食卓でも、家族の仲間入りをすることで、家族の真似をしながら食べ方を学んでいきます。赤ちゃんが小さな社会性を身につける機会になると思います。
ー食事の環境はどうやって整えていくのが良いのでしょうか。
まず、まっすぐ座れるようになったら、赤ちゃんをベビーチェアなどに座らせます。
テーブルを前にして、膝上で抱き抱えるように座るのも良いでしょう。
赤ちゃんが安定して座れているか、手が自由に動かせているかを確認してください。
テーブルの高さは、腕を垂らしたときの肘の位置。腰・膝が90度の状態で、足裏が足置き板にぴったりついている状態が理想です。
BLWでは、足置き板のないベビーチェアはお勧めしていません。体が小さく、椅子が合わない場合は、背中にクッションを入れるなどして工夫してみてください。
赤ちゃんが自発的に食べることを、保護者は「見守る」ことになります。
食べることに集中できるよう、テレビなどは消して、赤ちゃんを一人にすることのないように、しっかり見守ってください。
よく、BLWにおすすめのベビーチェアを聞かれますが、yamatoyaさんのベビーチェアもいつも紹介させていただいています。
「足裏をぴったりつける」姿勢が取りやすく、体の大きさに合わせて座板や足置き板の高さや奥行きを細かく調整できることに加えて、掃除のしやすさもおすすめのポイントです。
赤ちゃんが食材で遊んだり、大胆にこぼしたりしながら食事が進んでいくBLWでは、「ベビーチェアの掃除のしやすさ」はとても重要なんです。
ー離乳食初期にあたる時期の、母乳やミルクの考え方について教えてください。
BLW開始すぐは、「食事」と「母乳・ミルク」は切り離して考えるよう、お伝えしています。
「赤ちゃんのお腹が減ったら母乳・ミルク」
「家族の食事の時間に、赤ちゃんも呼んで一緒に食卓を囲む」という考え方です。
もしも食事の進みが悪い場合でも、「食べさせなきゃ」と考える必要はないと思っています。「なんとか食べてもらうために授乳量を減らす」という必要もありません。
従来の離乳食でも、BLWでも、1歳ごろまでは母乳やミルクがメインの栄養源です。
授乳の必要がなくなれば、赤ちゃん自身が摂取量を減らしてくれるはずです。
また、BLWには、「1回食」「2回食」という概念はありません。
家族が食べるときに、赤ちゃんも食卓へ招き入れて目の前に食材を並べ、みんなで食事の時間を楽しんでくださいね。
0才からできる「自分の意思を尊重された」経験を
ー改めて、BLWのメリットや、尾形さんが大切にされていることについて、お聞きしたいです。
離乳食の目的はさまざまで、「(授乳では補いきれない)栄養を摂取する」ことに重きを置かれがちですが、「食事を通して好奇心を育てる」「自分で食べる力を育てる」ことも、とても大切なポイントです。
「自分の意思を尊重された」という経験は、とても大切ですし、それを実感できる子は他人の意思を尊重できる子に育つのではないかと、そう信じています。
私自身、二人の子どもをBLWで育てましたが、過去にとても興味深いことがありました。
上の子が5才、下の子が3才のとき、下の子が白飯に手をつけていなくて、おかずばかり食べていて。私もこういう活動はしているものの、極端に偏った食べ方がどうしても気になってしまって「ご飯もあるからね」と声をかけたら、本人から「あとで食べる」と返ってきたんです。
しばらく見ていてもなかなか手をつけなくて、時間にも追われていたし、もう一度「ご飯も食べよ?」と声をかけてしまったんですよ。
そしたら5才のお姉ちゃんが、私にこう言ったんです。
「ママ。さっき、けいちゃん何て言った?『あとで食べる』って言ったよね?それはけいちゃんのご飯だから、けいちゃんが決めるんでしょ?」
BLWで育てたから、というわけではないですが、でも本人の意思を尊重することを続けると、他者の意思を尊重できる子になるんだ、と私がびっくりしました。
どこか腑に落ちた部分もありましたし、自分の対応にちょっと反省したできごとでした。
ーそれはとても興味深いお話です。尾形さんが実践したことが、お子さんに伝わっていたのですね。
BLWは、子どもの成長や発達をより感じられる、そんな離乳法でもあると思っています。
子どもの「できた!」という可能性を、日々の食事で感じていくことができます。
そしてこれは、やがて子どもの選択・決定を「見守る」側になるママやパパの予行練習でもあると思うんです。
たとえば、目の前の子がどんどん大きくなって、受験や進学、就職といった壁に向かっていくとき、親って口を出したくなると思うんです。
だからといって安全で確実なレールを敷いて導いてあげるのではなく、その子の人生の選択に必要な環境を与えてあげたうえで、本人の選んだ道を見守ってあげることが大切だと思うんですよね。
その子自身が、小さな意思決定を重ねて、学んで成長していくことを、少しずつ積み重ねていく。BLWはそのスタートラインになれるかもしれないと、私は思っています。
赤ちゃんとご家族が、少しでも笑顔で食事の時間を迎えられるように、離乳食の方法にもいろいろあっていいと思っています。
BLWという方法や、提唱者であるGill Rapleyさんの想いが、子育てに奮闘するママやパパにとって、いいヒントになったらとても嬉しいです。
ライター 後藤麻衣子
※食物不耐性、アレルギーまたは消化器疾患の家族歴がある場合、または赤ちゃんの健康や発達に関する不安がある場合は、BLWの導入についてかかりつけの小児科医と話し合ってください。